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2001年4月より、慶應義塾大学大学院(SFC:湘南藤沢キャンパス)へ通学中です。そこで感じた“生”のキャンパスライフをお届けします。

■修士論文最後の難関 〜最終試験〜

vol.5 論文提出。そして、最終試験の口頭試問へ

7月3日論文提出。しかし、修士論文はこれで、終わりではなかった。

どこの大学院でも、通常はこの後に口頭試問という類の試験が待っているのです。 わが慶応大学大学院政策・メディア研究科でも同様、最終試験なるものが待っていました。

 修士論文は主査一人・副査二人がまず論文全部を読み、採点し、さらに複数の先生がその論文は修士号を与えるに値するかを採点します。そのために複数の先生たちの前で行うのが口頭試問です。 わが校でのケースはちょっと特殊だと思われますがご紹介いたしましょう。 なぜ特殊かと言えば、論文を採点する先生方が多岐にわたるからでしょう。また、それはぜかと言うと「SFCだから」なのです。SFCは本当にいろんな人がいろんな研究をしています。一学年150名足らずが、ひとつの研究科に所属しますが、研究内容は、建築、アート、バイオ、言語、コミュニティ、など広い分野にわたります。学生は、以下の14のグループ別に所属します。
ITビジネス ITビジネスを多角的に研究するとともに、ビジネスを起業できる人材を育成する。
インフォメーション
テクノロジ
実践的IT技術の習得を通し、ITシステムや情報ネットワークを研究開発する。
環境デザイン 建築・景観・都市にまたがる空間をデザインし、計画を策定する技術・手法を研究する。
グローバル ガバナンス 地球化時代の個人・国家・国家群の関係をデザインする。
言語とトランスカルチャー 多民族・多言語・多文化の状況に適応するマネジメントを研究する。
サイバーナレッジ 人工知能の基礎を研究し、サイバースペースにおける知的応用システムを開発する。
サステイナブル・
ディベロップメント
地球全体の環境保全・安全保障を実現する政策・開発技術の研究。
ジオ・インフォマティクス 新しい空間・環境の創造に関する政策形成・計画立案。
政策形成と電子政府 IT技術の進歩に伴う政策デザインの方法論および社会的ネットワークの構築法の研究。
ソシオセマンティクス 個人・集団の価値観の構造を解明し、政策形成、経営戦略、教育に還元する。
認知・身体科学 認知・知覚・身体のメカニズムを解明・システム化する。
ネットワーク ガバナンス ネットワーク環境を実践基盤として社会問題に取り組む。
バイオ インフォマティクス 遺伝子・ゲノム・細胞から生命をコンピュータで解明する。
ファイナンスと不動産 金融・不動産市場の変革に対応可能な基礎理論を研究し、応用能力を涵養する。
メディアデザイン コンピュータによるアート・エンターテイメント等の創作。

これを見て驚かれる人も多いと思いますが、それらがひとつの研究科に集まるにはわけがあり、従来のような研究方式では、出来ない事をする人が集まっているわけです。先端の研究をする、実践に即した研究をする、または全く新しいものを作り出すには従来の研究を踏襲していただけではだめで、広い領域を横断的に学ぶ必要性があると考えたからだと思われます。 そのため、やる気になれば、アートを専攻しながら、バイオを学ぶこともあるわけです。環境デザインをするのに身体科学が役立つ事だってあるはずです。というわけで、SFCは特殊です。そのために、最終試験もさまざまな人が集まります。ちなみに、私の期になる春卒業には31人が最終試験に臨み、8つの部屋にわかれてプレゼンをしました。


論文テーマのラインナップ

 最終試験のスタイルは、20分修士論文のプレゼン、10分が口頭試問です。聞いてくださるのは10名から20名くらいの採点する先生と他には学生も聞くことが出来ます。どんな人たちが発表したかと言うと私の部屋の学生の論文のテーマは、
「定年前後世代に見る『幸せ感』−ポストモダン消費者研究解釈的アプローチによる行動の諸相と金融行動についての考察」
「恋愛小説の物語分析―村上春樹と庄司薫を中心に」
「モバイル端末を活用したナビゲーションシステムの開発と評価〜携帯電話を活用した尾道観光ナビシステムを事例として〜」
で、私は「教育現場におけるメディアミックスユーザーのためのコンテンツ研究」というラインナップです。


130ページの論文を、20分にまとめてプレゼン

 これらを同じ先生が採点します。先生の専門分野はマーケティングや語学など、全く領域が違うわけです。これがSFCの特殊性であり、いい所であるといいます。  がしかし、発表する側にとってみると、これはかなり大変な作業になります。「メディアミックス」といってもその言葉の定義から入らねばなりません。限られた20分の時間でこれらに時間をとられるのはとても痛い事で、前置きばかり長いと本題に行くまでに時間が終わってしまいます。ちなみに私の論文は130ページあり、これを20分でまとめるわけです。

 ほとほと困った私は、主査の金子先生に「この作業は38時間取材したVTRを10分番組にするようなものですね」と申し上げたら、「38時間取材したVTRは一度棚上げして、10分番組を最初から作り直すつもりで臨んだほうが良い」とアドバイスいただき、考えを改めました。


論文は社会の人が認めて初めて貢献できる

 そうなると、昔とった杵柄、人を感動させるインパクトのあるプレゼンはテレビ屋家業の生業です。この際、自分が苦労した分析や渾身の理論展開もばっさり切り捨て、「言いたい事をひとつだけ」絞り込む作業にはいりました。20分で言える事など本当に大した量ではありません。というわけで、論文の結論ではなく、とても象徴的なひとつの事例を具体的に取り上げることにしました。そしてすべての人が納得行くように、隙を見せないことも重要でした。ひとつ引っかかることがあると、その論証が崩れて行きます。

 最初は「全く違った領域の人にわかってもらうのは困難だろう」とか「どうして全く違う領域の人に説明する必要があるのだろう」という考えだったのが、「そうか論文は社会の人が認めて初めて貢献できる」「誰でもわかるものでなければ自己満足にしかならない」ということに気づかされたのです。


早稲田の修士論文と口頭試問

 ちなみに早稲田の場合は全くこのような方式とは違い、口頭試問は教授3名(主査1名、副査2名)に対し、プレゼン&口頭試問を行うのですが、修士論文とは別に、プレゼン用の資料を用意する必要があり、プレゼン時間は約10分。 口頭試問を担当する3名の教授には、昨年の11月くらいから「修論のプロット」を共有するところから相談しながら進められるそうです。その相談の中で、「それを先行研究とするのは君の論文の価値を下げる。もっと○○とか××のほうがいい」とか「前提となる定義があいまいなので、そこをもっとクリアにしたほうがいい」など具体的なアドバイスをいただきながら修論を作成していったそうです。
 つまり自分の研究領域の人しか論文を見ないし、その分、担当の教諭は責任をもって指導するということでしょう。

 この場合、SFCのような苦労はしなくてすむことになります。どちらが良いというのは学校の個性ですし、賛否両論あるでしょうが、これで大学を選ぶほどのポイントではないと思われます。でもそれぞれの学校の個性としては象徴的ですね。


今までの月日を噛み締めた合否発表

 さて肝心の合否ですが、合否は昔ながらの方式で掲示板に張り出されます。これだけオンラインでつながっている学校なのに、張り出しとは古風なと思いつつ、この発表を息子と二人で湘南まで旅気分で見にいきました。でも掲示板を前にするとなんだか大学の合格発表の緊張が蘇ってきて、少し緊張しました。自分の番号を見つけたときは、結果がわかっていたものの、正直とても嬉しくて、何度か指で追って確認し、今までの月日を噛み締めました。これで晴れて修士号をいただける事になったわけです。

 この半年、夜帰宅して私を見た夫が「PCに向かう後姿から針がはえていて、ハリセンボンみたいだった」と友人に語ったそうですが、なんとか半年に渡る修士論文生活はピリオドを打ったのです。

“campus lifeはリクルート「ケイコとマナブ.net」での連載です。”